いいものを作る人が報われる仕組み|これマネ大阪×農産物加工協会で学んだこと

デリシャスノーツの長屋です。
2026年10月21日、水曜日の夕方。私は銀座を離れて、大阪の本町にいました。「これマネ」の大阪例会に参加するためです。
これマネは、一般社団法人「これからの時代の・飲食店マネジメント協会」の通称です。私はこの協会のこれマネシリーズで『これからの飲食店集客の教科書』を書かせていただいた縁があり、京都、神戸の会にもお邪魔してきました。そして今回の大阪は、NPO法人 農産物加工協会とのコラボ回。飲食店の人間と、生産者や加工の現場の人間が、ひとつの店に集まる夜です。
正直に申し上げると、私は「生産者の話」を、どこか自分の本業とは少し離れた話だと思っていました。ところが、この夜いちばん刺さったのは、たこ屋の3代目の方が語った、こんな一言でした。
「いいものを作る人が、報われる仕組みを」
結論から言います。持ち帰ったのは、作ることと、届けることは、別の仕事だという、当たり前で、しかし多くの人が一人で抱え込んでいるテーマでした。

会場は、南本町の「25 twogo」
会場は、大阪市中央区南本町の10StoRKビル1階にある「25 genreless deli restaurant(トゥーゴー)」さん。ガラス越しにワインのボトルがずらりと並ぶ、明るいデリのレストランです。そのボトルの前にスクリーンを立てて、ミニセミナーが始まりました。
当日の流れは、こういう組み立てでした。
| 時刻 | 内容 |
|---|---|
| 17:30〜 | ミニセミナー開始 |
| ① | NPO法人 農産物加工協会の活動報告 |
| ② | これマネのご紹介(代表理事 山川博史さん) |
| ③ | 参加者の自己紹介 |
| ④ | ミニセミナー「いいものを作る人が、報われる仕組みを」南口晃洋さん |
| ⑤ | 乾杯・懇親会 |
| 20:30 | 終了 |
参加者は30人。自己紹介を聞いているだけで、ひとつの「食のサプライチェーン」ができあがっていきました。食肉の卸と加工、1日に何千食も作れるセントラルキッチン、店舗の設計、農業とお酒の体験ツアーの企画、カフェの開業支援、SNSのマーケティング、農家さん向けの通販の仕組み、農業と福祉をつなぐ取り組み、自然栽培の農家さんと農学校、法律事務所、街の中華料理店、おにぎりのキッチンカー、魚の卸、そしてこれからお店を持ちたいという方まで。
作る人、加工する人、運ぶ人、売る人、店を開く人。ふだんは別々の場所にいる人たちが、同じテーブルを囲んでいる。この顔ぶれそのものが、この夜のテーマを物語っていました。
農産物加工協会という「間」をつなぐ人たち
最初は、NPO法人 農産物加工協会の活動報告です。

農産物加工協会は、大阪のあべのハルカスに本部を置くNPO法人で、2021年にNPO法人として設立されています。掲げている言葉は「技術で生産者の新しいキッカケを作る」。生産者と加工メーカーのマッチング、加工メーカー向けの衛生管理の研修、6次産業化した商品の発信などに取り組んでおられます(協会のホームページより)。
農家さんが作った野菜や果物は、そのままでは傷みます。ジュースやジャム、ドライフルーツ、レトルトにすれば、季節を越えて、遠くまで届けられる。その「加工」という、生産者と売り場のちょうど間の仕事を、仲間で支えている団体です。
高校生と考える「農業の未来」

印象的だったのは、教育への力の入れ方です。関西大学北陽高校の学生さんと一緒に、一年をかけて「農業の未来」をテーマにした探究学習に取り組み、学生さんたちの発表は最終プレゼンに選ばれたそうです。スライドには、若者が集まる都心に農業のテーマパークをつくる、という高校生らしい大胆な提案も並んでいました。今年も協働が決まり、次は高校生と一緒に商品開発に挑むとのことです。
にっぽん青果祭、果樹園の視察、そして商談会

4月には、大阪・うめきたで開かれた「にっぽん青果祭」に、会員企業が共同で出店。ステージでは、若い生産者さんたちがアーティストとして登場し、音楽で農業への思いを発信したそうです。農業を「おじいちゃん、おばあちゃんの仕事」ではなく、若い人が憧れる仕事として見せる。その発想が、神戸の会で聞いた若手農家さんのお話とも重なりました。
5月には、奈良県五條市と三重県名張市の果樹園へ視察に。ここにはスーパーのバイヤーさんも同行し、現地で商品を見てもらったといいます。6月には分科会「流通研究会」。そして7月には、日本政策金融公庫と初めての合同オンライン商談会を共催し、公庫が支援する生産者さんと、協会の加工企業とをつないで、1日で58件の商談が行われています(協会のホームページより)。
聞きながら、私は思いました。この協会がやっていることは、ほとんどが「出会いの設計」です。いいものを作る人と、それを必要としている人を、どう会わせるか。生産者さんが一人で営業に回っても、なかなか会えない相手に、場の力で会わせていく。
山川博史さん「作ることと、経営することは別」
続いて、これマネの代表理事、山川博史さんから協会のご紹介です。
これマネの中心にあるのは、飲食店向けの書籍シリーズと、その目次ごとに短い動画で学べるようにした教育プログラムです。企業の研修に使われるだけでなく、今年からは調理師の専門学校の授業や、卒業生のサポートにも導入されているそうです。
山川さんのお話でいつも胸に残るのが、ここです。料理学校を出た人は、料理はめちゃくちゃうまい。でも、お店を開いてから経営に悩む人がとても多い。資金のこと、衛生管理のこと、人のこと。料理がうまいことと、経営がうまくいくことは、別の力なのだ、と。
そして今年、これマネに「これマネ生産者」という枠ができました。山川さんいわく、生産者の方々の話を聞くうちに、農家さんも悩みが多いのだと分かった。すごくいいものを作っても、どう伝えればいいのか。どう流通させればいいのか。小さな農家さんほど、そこで立ち止まっている。
だから、ただ流通の道をつくる、ただ使ってくれる飲食店を紹介する、というだけではなく、生産者さんも飲食店と一緒に学ぶ。飲食店にはどんな課題があるのか。どう提案すれば、相手にとっても良い取引になるのか。誰かに頼りきるのではなく、共に考える環境をつくりたい。そんなお話でした。
これマネは、メンバーの紹介と承認がなければ入れない仕組みで、勧誘やクロージングも一切しません。「必要だと思ったときに、いいタイミングで入ってくれればいい」。この落ち着いた距離感が、京都でも神戸でも、そして大阪でも、各地に人が集まる理由なのだと思います。
南口晃洋さん「いいものを作る人が、報われる仕組みを」
そして、この夜の主役です。農産物加工協会の会員企業で、協会と一緒に商品開発にも取り組んできた若社長。紹介の方からは親しみを込めて「タコ王子」と呼ばれていました。南口晃洋さんです。

たこ屋の3代目

南口さんは、大阪のたこ屋の3代目。スライドの年表によると、2000年に有限会社大上商事、2012年に株式会社いずみが設立され、2023年に家業の経営へ。2024年にORCA MEDIAの事業を始め、2025年5月に法人化されています。大上商事が加工・冷凍保管・物流を、いずみが水産加工と商品供給を、そしてORCA MEDIA株式会社が商品の価値の整理・デザイン・販促を担う。この3社の組み立てに、このあとのお話が全部詰まっていました。
前職はタコの専門商社。小さいころからタコを食べ続けて、一時は「タコが苦手です」と言っていたほどだった、という笑い話から始まりました。
売上は伸びる。でも、利益は残らない

タコの原料価格は、ニュースになるほど上がっています。人件費も、光熱費も上がる。運転資金がかさみ、利益率は下がる。タコの商社さんと打ち合わせをしたら、値動きのグラフが用紙に収まらないほど上に伸びていた、という話には、会場から苦笑いが漏れました。
実は南口さんの会社は、2019年に楽天市場へ通販のお店を出しています。巣ごもり需要でネット通販は伸びた。ところが同時に、スーパー向けの注文も大きく伸びて、工場の生産が追いつかなくなった。水産加工の現場は厳しく、人もなかなか集まらない。そこで、ネット通販からは一度撤退する決断をされたそうです。
売上は伸びる。でも、利益は残らない。飲食店の皆さんにも、身に覚えがある言葉ではないでしょうか。忙しいのに、通帳の数字が増えていかない。スライドの一行が、静かに重く響きました。「大事なのは、最後に会社に何が残るのか。」
工場ではなく、商品と市場を変える

工場は1か所から4か所へ増えました。それでも原料高は続く。そこで南口さんが選んだのは、工場をさらに大きくすることではなく、売るものと、売る先を変えることでした。
これまでは、加工して、卸売市場へ、量販店へ。そこでは、どうしても価格で比較される。新しい方向は、加工の技術を生かして完成品をつくり、ブランドにして、新しい市場へ届ける。スライドには、こう書かれていました。完成品になると、比較の基準が変わる。味、手軽さ、用途、見た目、ブランド、贈り物としての価値。
工場の人たちは、すごくいいものを作っている。大きなタコも小さなタコも、手作業で仕込んでいる。けれど、それが「茹でダコ」として並んだ瞬間、お客さまの目に映るのは値札だけになってしまう。南口さんは、その価値を、値札以外のもので伝える道を選ばれたのです。
作る力だけでなく、届ける力を

その「届ける」役割のために立ち上げたのが、ORCA MEDIAです。楽天市場での経験があり、動画の制作は独学で身につけた。そこに、デザイナー、カメラマン、Webのクリエイターといった専門家が加わって、チームになった。
私はこのスライドを見て、思わず膝を打ちました。工場を持つ会社が、「届けるための会社」を別に持つ。作ることにかけてはプロの会社が、届けることにも本気でお金と人をかけた。ここが、この挑戦のいちばんの肝だと思います。
商品を作ることと、商売にすることは違った

そうして生まれたのが、真だこを主役にしたシリーズ「旨蛸」の、たこ飯とたこリゾットです。レシピの開発をお願いしたのは、パリで修業されたフレンチのシェフ、小野田陽平さん(Makuakeのプロジェクトページより)。南口さんは何度もお願いに行き、何度か断られながら、ようやく商品開発が動き出したそうです。
ところが、作り始めてから壁が次々に出てきます。レシピ、包装、Webのページ、食品表示、原価の計算、販売価格。量販店に卸していたころとは、市場が違えば利益率も違う。ずいぶん悩まれたといいます。
そこで南口さんが出した答えが、このスライドです。料理もできない。デザインもできない。でも、営業には自信があった。だから、自分がすべての専門家になるのではなく、それぞれの専門家が力を発揮できるようにつなぐ。自分の役割は、営業、連絡調整、価格の判断、経営の判断。「兵を率いる力と、将を率いる力」という言葉で、その違いを表しておられました。
広告をかけずに、物語で勝負した
旨蛸は、Makuakeでの応援購入という形で世に出ました。2026年6月から8月にかけてのプロジェクトで、85人のサポーターから、82万400円の応援購入を集めています(目標は50万円。Makuakeのプロジェクトページより)。
クラウドファンディングは、初日に支援を集めると勢いがつく。だから広告をかけたほうがいい、とずいぶん助言されたそうです。それでも南口さんは、広告費を使わず、商品と、そのストーリーと、ページだけで勝負したかった。もったいなかったかな、と笑いながらも、自然な集まり方で85人が応援してくれたことに、すごく感謝していると話されました。
ちなみに、プロジェクトの「顔」になるサムネイル画像は、最初は南口さんご自身で作ったのだとか。それを見た会社のデザイナーさんに即座に作り直された、という告白に、会場は大笑いでした。得意な人に任せる。さきほどのスライドの言葉を、ご本人が身をもって証明していたわけです。
スタッフが、将来の話をするようになった

私がこの日いちばん心を動かされたのは、売上の話ではなく、このスライドでした。
「スタッフが、将来の話をするようになった。」
水産加工の現場は、きつい仕事です。毎日注文に追われ、スーパーの特売の時期が来れば、ひたすら作る。そんな現場のスタッフさんたちが、自分たちの商品が世に出たことで、「次はこんな商品を作れないかな」「海外に行ってみたい」と話すようになった。
販路も広がり始めています。スライドによると、国内の商社や食品関連の企業、百貨店との商談が進み、台湾やマレーシアなど海外にもサンプルを送っている段階とのこと(2026年10月時点で、成約前のものを含むと注記がありました)。作り手、売り手、そして買い手。南口さんが最後に口にした「三方良し」という言葉には、作る人が報われるという意味が、はっきりと込められていました。
講演のあとには、たこ飯とたこリゾットの試食も用意されていました。電子レンジで温めるだけで食べられる商品だそうです。
ここから何を学べるか
- 売上より先に、「最後に何が残るか」を見る。 忙しさと利益は比例しません。数字の行き先を確かめるところから。
- 価格で比べられる場所から、価値で選ばれる場所へ。 完成品になると、比較の基準が変わる。お店でいえば、「近い・安い」から「この店だから」へ。
- 作る力と、届ける力は、別の力。 両方を一人で抱えなくていい。届ける専門家と組めばいい。
- 広告より先に、物語とページを磨く。 85人の応援は、商品とストーリーと見せ方で集まりました。
- 発信は、スタッフの誇りになる。 自分たちの仕事が世に出ると、現場が未来の話を始めます。
会場を出てから、考えていたこと
私の会社は、飲食店さんのGoogleビジネスプロフィールやグルメサイト、ホームページをお預かりして、集客のお手伝いをしています。だから南口さんのお話は、私にとって、そのまま飲食店の話に聞こえました。
いいものほど、届いていない
南口さんのスライドにあった、レシピ、包装、Web、食品表示、原価、販売価格の図。これを飲食店に置き換えると、こうなります。料理、メニュー表、写真、Googleマップの情報、グルメサイト、ホームページ、価格。
料理には自信がある。でも写真は暗いまま、Googleマップの営業時間は去年のまま、グルメサイトのコースは季節が変わっても同じまま。私は仕事柄、そういうお店を本当にたくさん見てきました。そして、そういうお店ほど、料理はおいしいのです。いいものほど、届いていない。原因は、作る力ではなく、伝える手が足りないことにあります。
全部を自分でやらなくていい
山川さんの「料理がうまいことと、経営がうまくいくことは別」。南口さんの「すべての専門家になるより、つなぐ」。お二人は、同じことを違う角度から話されていたのだと思います。
飲食店のオーナーさんは、仕込みをして、営業して、スタッフを見て、数字を見て、そのうえで発信までしようとする。真面目な方ほど、全部を自分でやろうとします。でも、南口さんが料理を一流のシェフに、デザインをデザイナーに任せたように、届ける仕事は、届けるのが得意な人に任せていい。オーナーさんの役割は、「将を率いる」ほうにあるのですから。
まず一つだけ、語ってみる
とはいえ、いきなり全部を変える必要はありません。まずは一つだけ。
あなたのお店で、作っている人が語れることを一つ選んでみてください。仕込みに何時間かけているのか。どこの、誰が育てた食材なのか。なぜこの値段なのか。それを、Googleビジネスプロフィールの投稿に、メニューの片隅に、一行だけ書き足す。値札だけで比べられていた一皿が、その一行で「選ぶ理由」に変わります。
この夜の会場には、生産者さんも、加工の会社も、飲食店も、いました。作り手の物語は、生産者から加工へ、加工からお店へ、お店からお客さまへと、リレーのように手渡していくものです。最後にお客さまへ手渡すのは、お店の仕事。私はそう思っています。
乾杯。デリの料理と、つながる夜
ミニセミナーのあとは、乾杯です。

料理は、会場の25 twogoさんのデリがビュッフェ形式で。木の板に、色とりどりの料理がずらりと並びました。

じっくり煮込んだお肉と玉ねぎをのせたパン、具だくさんの卵の焼き物、トマトとモッツァレラのひと口、エビとオレンジをのせたパン、ハーブを散らしたフライドポテト、銀色に光る魚にレモンを添えた一品。どれも少しずつ取りたくなる、デリのお店らしい見せ方です。

テーブルのあちこちで、名刺が行き交いました。生産者さんと飲食店さん、加工の会社と開業を目指す方。さっきまでスライドで聞いていた「つなぐ」が、目の前で起きている。こういう夜があるから、私は東京から足を運ぶのだと思います。

大阪で持ち帰ったもの
京都、神戸、そして大阪。3つの会を回って、私の中で一本の線がつながりました。
いいものを作る人は、どこにでもいる。足りないのは、作る力ではなく、届ける力です。そして、届ける力は、一人で身につけなくてもいい。仲間と組めばいい。農産物加工協会は生産者と加工をつなぎ、これマネは飲食店と生産者をつなぐ。私の仕事は、お店とお客さまをつなぐことです。
「いいものを作る人が、報われる仕組みを」。南口さんのこの言葉を、私は飲食店の皆さんにもそのままお届けしたいと思います。あなたのお店の「いいもの」は、ちゃんとお客さまに届いていますか。
ご登壇いただいた南口晃洋さん、活動を紹介してくださった農産物加工協会の皆さん、山川博史さん、会場の25 twogoの皆さん、そしてこの夜をご一緒した皆さん。本当にありがとうございました。次の会でまた、どこかの街でお会いしましょう。
㈱デリシャスノーツでは、飲食店さま向けにGoogleビジネスプロフィール・グルメサイト・ホームページの運用代行や、集客のご相談をお受けしています。「料理には自信があるのに、うまく伝えられていない」「発信まで手が回らない」といったお悩みも、ぜひお寄せください。
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