地元の食材を、地元の店が高く売る|これマネ神戸で学んだ食のつなぎ方

デリシャスノーツの長屋です。
2026年10月14日、水曜日の夕方。私は銀座から新幹線に乗って、神戸の三宮にいました。「これマネ神戸 〜食ビジネスでつながる〜」に参加するためです。
これマネは、一般社団法人「これからの時代の・飲食店マネジメント協会」の通称です。私はこの協会のこれマネシリーズで『これからの飲食店集客の教科書』を書かせていただいた縁があり、先月は京都の会にもお邪魔しました。そして今回は、神戸エリアの記念すべき第1回です。
正直に申し上げると、東京から神戸まで行くのは「お付き合い」のつもりではありませんでした。人手不足、原価高騰、街から人が流れていく。地方都市の飲食店がいま抱えている悩みが、神戸ではどう語られているのか。それを自分の耳で聞いておきたかったのです。
結論から言います。持ち帰ったのは「地元の食材を、地元の店が、高く売る」という、シンプルで、しかしなかなか誰もやり切れていないテーマでした。

会場は、三宮の「やきとん たまや商店」
会場は、神戸市中央区北長狭通の「やきとん たまや商店 神戸三宮」さん。店の壁にスクリーン代わりの布を張って、プロジェクターでスライドを映す。居酒屋がそのままセミナー会場になる、この手づくり感がこれマネらしいところです。
当日の流れは、こういう組み立てでした。
| 時刻 | 内容 |
|---|---|
| 16:30 | 開場 |
| 17:00〜 | 開会・これマネのご紹介(代表理事 山川博史さん)・参加者の自己紹介 |
| セミナー① | 株式会社皇蘭 会長 田鍋仁章さん |
| セミナー② | 農事組合法人 なちゅらるはーもにー 高橋龍宣さん |
| 18:00 | 懇親会 |
| 20:00 | 終了 |
参加者の顔ぶれが面白かった。飲食店の経営者はもちろん、農家さん、お菓子のメーカーさん、コーヒーの焙煎をされている方、店舗の設計をされている方、デザイナーさん、決済の会社の方、そして調理の道を目指す若い方まで。「食」でつながる人たちが、ひとつの店に集まっていました。
神戸エリアは、清水さんが代表として立ち上げ、事務局を株式会社フードコミュニケーションデザインの大庭やす生さんが務められます。今後は年3回程度の定期開催を予定しているそうです。

これマネという場所は、何をしているのか
まずは代表理事の山川博史さんから、これマネのご紹介です。

これマネの中心にあるのは、飲食店向けの書籍シリーズと、その目次ごとに短い動画で学べるようにした教育プログラムです。お店の社内研修に使う会社もあれば、調理師の専門学校で授業に使われている例もある。山川さんがおっしゃっていたのが、「料理がうまいことと、経営がうまくいくことは別」ということでした。生産者も同じで、作るのが上手なことと、経営が上手なことは別。だから学べる仕組みが要る、と。

コミュニティは大きく三つ。結果を出している専門家が集まるこれマネPRO、独立開業を目指す方の開業アカデミー、そして今年スタートしたこれマネ生産者。いいものを作っているのに流通に乗せられない小さな生産者さんを、仲間と一緒に支えていく取り組みです。
私がいつも感心するのは、運営のルールです。メンバーは紹介でしか入れない。そして、勧誘やクロージングは一切禁止。「本当に必要な人が、いいタイミングで入ってくれればいい」。飲食のコミュニティは、飲んで騒いで、というものも多いなかで、落ち着いて長く付き合える関係を最初から設計している。だから、こうして神戸のように各地で手を挙げる人が出てくるのだと思います。
それぞれのエリアは、山川さんのコミュニティに「参加する」のではなく、その地域の代表が「主催する」形。神戸の第1回は、まさにその始まりの夜でした。
田鍋仁章さん「神戸は、つながっていない」
最初のミニセミナーは、株式会社皇蘭の会長、田鍋仁章さんです。

皇蘭は、神戸南京町に本店を構える中華のお店であり、豚まんをはじめとする中華食材の製造も手がける会社です。南京町の本店は昭和55年の開業。ラーメンの「山神山人」というブランドもお持ちで、令和6年に社名を「株式会社北海」から「株式会社皇蘭」へ変えられています(同社ホームページの沿革より)。

冒頭、田鍋さんがこんな話をされました。今日のレジュメをAIで作ってみたら、あっという間に出てきた。けれど、それをそのまま読み上げても話にならない。だから皆さんとのディスカッションになるように考えてきた。AIに勝てるかどうかは、皆さんの盛り上がり次第です、と。
会場が笑いに包まれましたが、私はこの一言に、この日の会の意味が詰まっていると思いました。そのお話は後でします。
食材の宝庫なのに、経済はまわっていない
兵庫県は、日本海と瀬戸内の両方に面しています。城崎温泉があり、有馬温泉がある。北の但馬から南の淡路島まで、食材の宝庫と言われる土地です。
ところが経済はどうかと言えば、田鍋さんの見立ては厳しい。
- 街が「線」でつながっていない。 三宮、元町、そしてハーバーランド。本来は結ばれていてほしい街が、人の流れとしてはなかなかつながらない。新神戸駅と神戸空港がこれだけ近いのに、です。
- 京阪神の「通過点」になりつつある。 観光の方は姫路へ、京都へ、大阪へ。かつては四国の人が憧れて来た神戸に、人が流れてこない。
- 商店街が早じまいする。 十数年前、夜7時ごろには商店街にごみの収集車が走っていた、と。昔は店の上に住んで遅くまで開けていた商店主さんも、代替わりとともに店を早く閉めるようになった。
「花のない、フラワーロード」という一言も印象に残りました。地元の方だからこそ言える、愛情のこもった辛口です。
行政も動いている。でも、知られていない

神戸市も手を打っていないわけではありません。東遊園地などで定期的に開かれているファーマーズマーケット「EAT LOCAL KOBE」、マルシェ、大学生と地元農家による商品開発、海外への発信。「食都神戸」という旗も掲げています。
けれど田鍋さんは会場に問いかけました。「これ、知ってます?」。手はあまり挙がりません。やっているのに、知られていない。飲食店の集客とまったく同じ構造だと、私は聞きながら思っていました。
兵庫五国の食材で、付加価値をつくる
兵庫は、但馬・丹波・播磨・摂津・淡路の「五国」から成ります。田鍋さんの会社でも、地元の食材を使った商品づくりを続けてこられました。

スライドには、淡路島産の玉ねぎを使った豚まん、神戸牛の肉まん、神戸のご当地食材「ぼっかけ」と組んだ麺、地域のプロジェクトとのコラボドリンク。ラーメン店では、栄養学を学ぶ女子大生と店長がチームを組んで商品をつくり、女子大生自身が売る、という企画もされたそうです。学生さんが頑張る、店長がもっと頑張る、売上も上がる。「三方よし」だった、と笑っておられました。
地元のJAと組んで、地域の野菜を複数の飲食店で買い取り、各店がアレンジしてメニューにする企画も手がけられたとのこと。最初は「うちは野菜なんて使い道がない」と言うお店もあった。でも、考えれば出てくるでしょう、と。結果、みんな参加した。集団でやると、街は本当に活性化する。その実感のこもったお話でした。

「高いから安いのを」ではなく、「どう高く売るか」
この日いちばん心に残ったのは、ここです。
神戸で商売をする以上、できるだけ神戸の企業や、地元で生産された食材を使う。少し高いなと思っても、その価値を感じてもらえる形で、お客さまに出していく。地産地消で、地域にお金を落とす。それが一番必要な取り組みではないか、と田鍋さんは言います。
丹波の黒枝豆の季節になると、わざわざ買いに行く人で道が混む。それだけの力が、地元の食材にはある。旅先で、地元のお酒をシャーベット状にした一杯に出会い、こういう見せ方があるのかと感心した話もされていました。
そして、ご自身の気づきとしてこう締めくくられました。値段が高いから安いものにする、ではなく、地域に密着して、それをどう高く売るかを考えるべきだと、改めて思ったと。
売上は客数と客単価。そこに、季節感や旬、ちょっとした由来を添える。祝日に紅白のものを出す、それくらいのことでいい。お客さまの心が動く理由を、地元の食材でつくっていく。
来年4月を見据えて、テイクアウトを今から
田鍋さんは、来年4月に向けて国会で議論されている消費税の話にも触れ、「テイクアウトも絶対に考えていかなあかん」と話されました。制度がどう決まるかは、今後の動きを見守る必要があります。ただ、自分の店でテイクアウトとして何ができるかを、今から考えておかないと間に合わないというご指摘は、制度の行方にかかわらず、どのお店にも当てはまる話です。
ご縁は、偶然ではなく必然
最後に田鍋さんは、こんな言葉を残されました。
今日ここに集まった誰かと、もしかしたら一緒に何かをするかもしれない。人のご縁というのは、偶然ではなく必然です。同業だから隠す、という時代ではない。横のつながりで発信していけばいい。
新しいアリーナができても、イベントのない日は人が通らない。そこからメリケンパーク、ハーバーランドへと人が流れる仕組みを、街ぐるみでつくりたい。「実験して、何かしないと、何も変わらない」。会長という立場の方が、いちばん前のめりでした。

ここから何を学べるか
- 地元の食材は「原価」ではなく「売る理由」になる。 高いから避けるのではなく、その価値をどう伝えるかを先に考える。
- やっていても、知られていなければ、ないのと同じ。 行政の取り組みも、お店のこだわりも同じです。
- 一店でできないことは、集団でやる。 同業は敵ではなく、街に人を呼ぶ仲間です。
- テイクアウトは「いつかやる」ではなく、今から試作する。 外部環境が変わってから動いても遅い。
- 季節感と由来を、一言添える。 旬や行事にひもづけるだけで、注文の理由が生まれます。
高橋龍宣さん「農業の価値を、食べる人に届けたい」
二人目は、丹波篠山の農事組合法人 なちゅらるはーもにー の高橋龍宣さん。DXとスマート化に積極的に取り組む、若手の農業経営者です。


現場の作業を減らして、人と向き合う時間をつくる
高橋さんのお話は、驚くほど具体的でした。
お米や黒豆の防除作業には、ドローンを使う。新しい機械を入れるときは、AIを使って候補を一枚の表にまとめ、良さそうなものをメーカーに問い合わせる。病気や害虫の発生状況も一覧にして、いつ何をまくかを決めていく。
私が身を乗り出したのは、お客さまからの受付の話です。
これまでは、紙、電話、FAX。入り口が多いのはいいことだけれど、多すぎて整理ができていなかった。そこで公式LINEに入り口をまとめた。メニューのボタンもAIでつくり、予約のページへ飛ばす。申し込みが入れば、Googleのスプレッドシートに自動で反映され、社内のみんなにも通知が届く。後から手で打ち直さなくていい。
これを、農家さんが自分で組んでいる。飲食店の皆さん、いかがでしょう。電話予約のメモを、閉店後にノートへ書き写していませんか。
若い人が、農業に触れる機会をつくる
農業には「おじいちゃん、おばあちゃんがやっているもの」というイメージがある。高橋さんはそこを変えたいと話されました。
音楽と農業を掛け合わせて発信する若い農家さんたちとつながり、SNSで農業の面白さを見せていく。地元の高校生と一緒に、新しい商品づくりにも取り組んでいる。

スライドの言葉を借りれば、商品づくりを通じて作物や生産現場を知り、その経験や地域の魅力をSNSでも発信する。お涙ちょうだいにしたいわけではない、けれど現場のしんどさも知ってほしい。そして、農業に限らず、次の世代の雇用や活躍の仕方を新しくつくり、伝えていくことが大事だ、と。
若い人が加われば、新しい発想や技術も入ってくる。それがDXやスマート化を速める。現場で手を動かしている若い経営者の口から聞くと、この言葉には重みがありました。
当日はチラシもいただきました。丹波篠山の新米の販売(コシヒカリ、ミルキークイーン、マンゲツモチ)と、10月から11月にかけての収穫体験(さつまいも、丹波黒枝豆、落花生)の案内です。予約は公式LINEや電話で受け付けるとのこと。まさに、お話にあった「入り口をLINEにまとめる」が、チラシの上で形になっていました。
飲食店と一緒に、やりたいこと

飲食店の参加者が多いから、と、高橋さんは生産者の目線で三つを挙げられました。
- 収穫時期や出荷の見通しを、早めに相談する
- 生産現場の話を、メニューや店内の発信に使ってもらう
- 使い方・規格・必要量を、一緒に考える
たとえば「若い農家が育てた枝豆を仕入れて、こんな一品にしました」。それが店のブランディングになり、同時に生産者の応援にもなる。農家はJAに卸して終わり、という流れだけでなく、きちんとおいしく使ってくれる飲食店と直接つながりたい。
どれだけ頑張って作っても、食べる人に届かなければ意味がない。だから「農業の価値を、食べる人に届けたい」。この一枚目のスライドの言葉は、そのまま飲食店への呼びかけでした。
ここから何を学べるか
- 予約の入り口は一本にまとめる。 電話・FAX・紙が混在しているなら、LINEなどに寄せて、記録は自動で残す。農家さんにできるなら、お店にもできます。
- 生産者の名前と背景は、最強のメニュー説明になる。 「どこの、誰が、どう育てたか」を、メニューやSNSで一言添える。
- 仕入れは「注文」ではなく「相談」から。 旬の見通しを早めに聞けば、季節のおすすめが前もって組めます。
- 若い人に、仕事の面白さを見せる。 採用に悩むのは農業も飲食も同じ。働き方そのものを発信することが、次の担い手づくりになります。
懇親会。たまや商店さんの料理と、生産者さんからのいただきもの
18時からは懇親会。乾杯の声とともに、たまや商店さんの料理が次々に運ばれてきました。










この日うれしかったのは、生産者の方々が自分の作物を持ってきてくださったことです。三田でジャンボピーマンを作っておられる方からは、その名のとおり大きなピーマンを。丹波の黒枝豆もいただきました。テーブルでは「黒い枝豆って、初めて見た」という声も上がっていました。

会場で食べる料理の向こう側に、それを作った人の顔がある。ついさっきスライドで聞いた「食材の背景を共有する」が、目の前で起きていました。
懇親会では、私もAIの話でずいぶん盛り上がりました。「どこから始めたらいいのか」「うちの規模でも使えるのか」。皆さんの関心の高さを、肌で感じた二時間でした。
帰りの新幹線で、考えていたこと
私の会社は、飲食店さんのGoogleビジネスプロフィールやSNS、ホームページをお預かりして、集客のお手伝いをしています。だからこの日の二つのお話は、私にとって、ぜんぶ集客の話に聞こえました。
AIがつくれるのは「下書き」まで
田鍋さんがAIでレジュメをつくって、それでも「対話」を選ばれた話。高橋さんがAIでLINEのボタンをつくって、空いた時間をお客さまに向けている話。
お二人とも、AIを「人の代わり」ではなく「人と向き合う時間をつくる道具」として使っておられました。私も毎日AIを使い倒していますが、行き着く答えは同じです。AIは下書きを一瞬でつくってくれる。けれど、ご縁をつくるのは、やっぱり人と人です。
生産者の物語は、そのままお店の「選ばれる理由」になる
お客さまがお店を選ぶとき、いま見ているのは「何が食べられるか」だけではありません。「なぜ、この店なのか」です。
丹波篠山の若い農家さんが育てた黒枝豆。三田の大きなピーマン。淡路島の玉ねぎ。その名前と背景を、メニューに一行、SNSに一枚、Googleビジネスプロフィールの投稿に一言。それだけで、チェーン店には真似のできない「この店の理由」になります。
田鍋さんの「どう高く売るか」と、高橋さんの「食材の背景を共有したい」は、同じことを反対側から言っているのだと思います。つなぐのは、発信です。ここは、私たちの出番だと思っています。
押し付けず、まず一つだけ
とはいえ、全部をいきなりやる必要はありません。まずは一つだけ。
今週、あなたのお店で使っている食材のうち、産地や生産者が分かるものを一つ選んで、メニューかSNSに一行だけ書き足してみてください。「◯◯さんの黒枝豆、入りました」。それだけで、お客さまとの会話が一つ増えます。
神戸の皆さん、ありがとうございました
第1回とは思えないほど、熱のこもった会でした。立ち上げの清水さん、事務局の大庭さん、ご登壇いただいた田鍋さん、高橋さん、そして山川さん。会場をお貸しくださった、やきとん たまや商店 神戸三宮の皆さん。おいしい作物を持ってきてくださった生産者の皆さん。本当にありがとうございました。
ご縁は偶然ではなく必然。この夜につながったご縁から、神戸で何かが始まる。そう信じて、次回もまた伺いたいと思います。
㈱デリシャスノーツでは、飲食店さま向けにGoogleビジネスプロフィール・SNS・ホームページの運用や、AIを活用した集客のご相談をお受けしています。「地元の食材や生産者さんのこだわりを、うまく発信できていない」「予約や問い合わせの受付を、もっと楽にしたい」といったご相談も、ぜひお寄せください。
ご相談はお問い合わせフォームよりお願いいたします。
