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外食に、変化の風が吹く。──”その日”の前に、いっしょに備えるために

最近、ニュースやSNSで「食料品の消費税を下げよう」「中低所得の世帯にお金を配ろう」といった話を、ちらほらと耳にするようになりました。レジに立っていても、お客さまとの何気ない会話のなかで「税金、安くなるって本当ですか?」と聞かれた、という店主さんもいらっしゃるかもしれません。

正直なところ、こうした話を聞くたびに、胸の奥が少しざわつく。それが、飲食店を営む方の自然な感覚ではないでしょうか。「スーパーの食材は安くなって、うちの店内飲食はそのまま、ということになったら、お客さまは家で食べるほうを選んでしまうのだろうか」——そんな不安が、ふっと頭をよぎる。

その気持ちは、よく分かります。毎日、仕込みをして、火を入れて、お客さまをお迎えして、洗いものをして、また明日の準備をする。そうやって積み重ねてきた日々のなかに、自分ではどうにもできない大きな話が、外側から降ってくる。落ち着かない気持ちになるのは、ごく当たり前のことです。

けれど、ここで慌てて何かを決めてしまう必要はありません。むしろ、いまいちばん大切なのは、「いま、何が、どこまで決まっているのか」を冷静に、正確に知ることだと、私たちは考えています。

不確かな噂や、誰かの感情的な意見に振り回されるのではなく、まず事実を落ち着いて定義する。そのうえで、「もしそうなったら、外食の現場には何が起こりうるだろう?」を、想像力を働かせていっしょに考えてみる。そして、変化が本格的にやってくる前に、できる備えを少しずつ整えておく。

この記事は、そんな「あわてない準備」のための一本です。読み終えたあとに、ざわついていた胸が少しだけ落ち着いて、「なんだ、まずはここから考えればいいのか」と思っていただけたら——それが、私たちの願いです。最後までお付き合いいただけたら嬉しく思います。


目次

第1部 まず、事実を冷静に定義する

いま「検討されている」と報じられていること

はじめに、いちばん大事なことをお伝えします。

これからお話しするのは、あくまで現時点で政府の内部などで「検討されている」と報じられている段階の話です。制度として正式に決まったわけではありません。最終的にどんな内容になるのか、いつから始まるのか、そもそも本当に実施されるのか——その多くは、まだ何も確定していません。

ですから、どうか「もう決まったこと」として受け取らないでください。世の中には、ひとつの報道がいつのまにか「決定事項」のように一人歩きしてしまうことが、よくあります。けれど、私たちが商売の足元を考えるときに頼りにすべきは、伝聞でふくらんだ話ではなく、いま確かに言えることだけです。ここでは、ニュースなどで語られている方向性を、できるだけ中立に、噛みくだいて整理していきます。

報じられている動きを、ざっくり言葉にすると、おおよそ次のようなものです。

ひとつめは、食料品にかかる消費税を引き下げよう、という方向性。 私たちが毎日スーパーやコンビニで買う食材・お米・パン・お惣菜などにかかる税を、いまよりぐっと軽くする——人によっては「実質ゼロに近いところまで」という言い方もされています。家計のなかで、食費は誰にとっても避けられない出費です。そこを軽くすることで、暮らしの負担をやわらげよう、という考え方ですね。

ふたつめは、中低所得の世帯への現金給付。 税の仕組みをいじるだけでなく、家計が厳しい層に直接お金を届けよう、という議論も並行して語られています。これも金額や対象、時期など、具体的なことはまだ何も固まっていません。

ここまでだけ読むと、「暮らしが楽になる、いい話じゃないか」と感じる方も多いと思います。実際、生活者の目線で見れば、それはひとつのありがたい方向性でしょう。私たち自身、一人の生活者としては「ありがたいな」と思う気持ちがあります。

ただ、飲食店を営む立場から見ると、ひとつ、注意して見ておきたいポイントがあります。

「内食・テイクアウトは軽減、店内飲食は対象外」という線引きの可能性

報じられている内容のなかで、外食業にとって見過ごせないのが、「どこまでを”食料品”として軽減の対象にするか」という線引きです。

いまの消費税の仕組みでも、すでに似た線引きが存在しているのをご存じの方も多いはずです。スーパーで買う食材や、お店から持ち帰るテイクアウトは「軽減税率」の対象。一方で、お店の中で食べる「店内飲食(イートイン)」は、対象外として通常の税率がかかる——あの考え方ですね。

実は、この線引きは、私たちの暮らしのなかに、すでにさりげなく溶け込んでいます。

たとえば、コンビニでおにぎりとお茶を買う場面を思い浮かべてみてください。同じ商品でも、「持ち帰ります」と言えば軽減税率、「イートインで食べます」と言えば通常税率——。レジで「店内でお召し上がりですか?」と聞かれて、なんとなく答えた、あの一瞬。あれこそが、まさに「どこで食べるか」で税が変わる線引きの、いちばん身近な実例です。

ファストフードのお店でも同じです。同じハンバーガーセットなのに、「お持ち帰り」と「店内」でレシートの税率表示が違う。ショッピングモールのフードコートでも、出来たてのお惣菜を売り場で買うのと、その場で食べるのとで、扱いが変わることがあります。——ふだんは意識しないだけで、私たちはもう、この「食べる場所による差」のなかで毎日の買い物をしているのです。

今回検討されていると報じられている内容も、この延長線上にあると見られています。つまり、

  • スーパーなどで買う食材や、家で食べるための”内食”は、軽減の対象になりうる
  • テイクアウト・持ち帰りも、同じく軽減の対象になりうる
  • しかし、お店の中で食べる”外食(店内飲食)”は、対象外として据え置かれる見込み

——という整理です。繰り返しますが、これも確定ではありません。線引きそのものが今後どう変わるかも分かりません。あくまで「いま語られている方向性」です。

内食・テイクアウトと店内飲食。その「割安感の差」がそっと広がっていく
内食・テイクアウトと店内飲食。その「割安感の差」がそっと広がっていく

結果として広がりうる「割安感の差」

では、もしこの線引きのまま制度が動いたとしたら、何が起こりうるのか。

いちばん本質的なのは、「家で食べる・持ち帰って食べる」ことと、「お店の中で食べる」ことの間に、価格の”割安感の差”が、いまよりも開きうるということです。

たとえば、です。あくまでイメージとして聞いてください。

仕事帰りのお客さまが、ふと「今日の晩ごはん、どうしようか」と立ち止まる。スーパーのお惣菜コーナーを覗けば、税が軽くなったぶん、これまでより少しお得に感じる。一方で、いきつけの定食屋さんに入って店内で食べると、そちらは据え置きのまま。——こうした「ちょっとした差」が、毎日の選択のなかで積み重なっていく。

一回あたりの差は、数十円かもしれません。けれど、人の心理というのは不思議なもので、「なんとなく、こっちのほうがお得だな」という感覚は、回数を重ねるほど効いてきます。とくに、毎日のように利用する日常使いのシーンほど、この「割安感の差」は意識されやすい。

ここで気をつけたいのは、人は必ずしも「正確な金額」で動くわけではない、ということです。「実際にいくら違うか」よりも、「なんとなく、あっちのほうがお得な気がする」という”印象”のほうが、毎日の小さな選択を左右することがあります。だからこそ、わずかな差であっても、それが繰り返し語られ、繰り返し意識されると、お客さまの足の向きが少しずつ変わっていく——その可能性は、頭の片隅に置いておきたいところです。

さらに、現金給付の話も加わってきます。給付があれば、一時的に家計に少し余裕が生まれる世帯も出てくるでしょう。そのお金がどこに向かうのか——内食に回るのか、それとも「たまには外で」という外食に回るのか。これもまた、ひとつの大きな変数になりえます。

この章の結論

ここまでを、いったん落ち着いて整理します。

  • 食料品の消費税引き下げと、中低所得層への現金給付が「検討されている」と報じられている
  • その線引きでは、内食・テイクアウトは軽減対象、店内飲食(外食)は対象外で据え置きの見込み
  • 結果として、内食・持ち帰りと、店内飲食の「割安感の差」が広がりうる
  • ただし、これらはすべて検討段階であり、内容・時期・実施は未確定

大事なのは、この事実を「怖いもの」として受け取るのではなく、「お店として、知っておくべき前提条件」として、淡々と把握しておくことです。前提条件さえ正しく押さえておけば、慌てる必要はありません。地図を持って歩く人と、持たずに歩く人とでは、同じ道でも安心感がまるで違う。私たちはまず、その地図を手にするところから始めたいのです。次の章では、この前提のもとで「外食の現場に何が起こりうるか」を、いっしょに想像してみましょう。


第2部 外食業界に、これから起こりうること

ここからは、少し想像力の翼を広げてみます。

繰り返しになりますが、これは「こうなる」という断定ではありません。「もしかしたら、こんなことが起こるかもしれない」という、複数のシナリオです。占いのように当てにいくものでもありません。ただ、いくつかの”起こりうる風景”を先に眺めておくと、心の準備ができる。それが、この章の目的です。

そして、ぜひ意識していただきたいのは——同じ変化でも、お店の「業態」によって、受ける影響も、打つべき手も、まるで違ってくる、ということです。これからのシナリオを読むときは、どうか「うちのお店だったら、どうだろう?」と、自分のお店を主語にしながら読んでみてください。

シナリオ1 日常使い・低単価帯ほど、「今日は家で」が増えるかもしれない

まず考えられるのは、毎日のように使われる、日常使いのお店ほど、内食シフトの影響を受けやすいかもしれない、ということです。

ランチの定食、仕事帰りの一杯、家族での気軽な外ごはん——こうした「特別ではないけれど、日常に溶け込んだ外食」は、お客さまにとって、内食(家で食べる)との距離がとても近い。だからこそ、「割安感の差」がじわりと効いてきたとき、「今日はお惣菜を買って帰ろうかな」「家で簡単に済まそうかな」という選択が、これまでより少し増える——そんな見方もできます。

たとえば、駅前の小さな定食屋さんを思い浮かべてみましょう。お昼どきは近所で働く人たちで賑わい、夜は一人でふらりと立ち寄るお客さまも多い。日替わり定食で、毎日通っても飽きないように工夫している——そんなお店です。ここに通うお客さまの多くは、「家でつくるより手軽で、あたたかいごはんが食べたい」という理由で暖簾をくぐっています。もし内食やお惣菜の割安感が高まれば、その「手軽さ」の天秤が、ほんの少しだけ家のほうに傾く日が出てくるかもしれません。

けれど、この定食屋さんには、お惣菜には決して出せないものがあります。それは、店主さんが顔を覚えていて「今日は唐揚げ、揚げたてだよ」と声をかけてくれること。常連さん同士の、ゆるい挨拶。湯気の立つ味噌汁の一杯。——つまり、ここで考えるべきは「価格でお惣菜に勝つこと」ではなく、「価格ではないところで、また来たいと思ってもらうこと」なのです。

一方で、これは裏を返せば、「では、家ではなく、わざわざうちの店で食べる理由は何だろう?」を、あらためて見つめ直すきっかけにもなります。後の章で触れますが、この問いこそが、実は外食の未来を明るくする入口になりうるのです。

シナリオ2 「持ち帰り・デリバリー」という受け皿を、自店に作る動きが広がるかもしれない

次に考えられるのが、お店の側が「持ち帰り・デリバリー」という”受け皿”を、自分のところに用意する動きです。

もし内食・テイクアウトの割安感が高まるのなら、その流れに背を向けるのではなく、むしろ「だったら、うちの味を持ち帰れるようにしよう」と発想を切り替えるお店が増えるかもしれません。お客さまが「家で食べたい」と思ったときに、その選択肢のなかに”自分のお店の味”を入れてもらう。これは、ただ売上の入口を増やすという話だけではなく、お店とお客さまの接点を、店内の数時間だけに限定しないという考え方でもあります。

店内で、持ち帰りで、デリバリーで。お客さまの「食べ方」が広がっていく
店内で、持ち帰りで、デリバリーで。お客さまの「食べ方」が広がっていく

ここで思い浮かべたいのは、仕事帰りの一杯が看板の、町の居酒屋さんです。カウンター越しの会話や、その場の賑わいが魅力のお店ほど、「持ち帰りなんて、うちには合わない」と感じるかもしれません。けれど、よく考えてみてください。お客さまが大好きな名物の煮込みや、自慢の唐揚げを、「家でもう一杯やりたい夜」に持ち帰れたら——それは、お店の味を、お客さまの家の食卓にまで届けるということです。店内の賑わいは賑わいとして大切にしながら、家で過ごす夜にも、そっと寄り添う。そんな二段構えが、変化への耐性をじわりと高めてくれます。

もちろん、テイクアウトやデリバリーは、はじめてみると簡単ではない面もあります。容器のこと、味の保ち方のこと、オペレーションのこと——。揚げものは時間が経つとどうなるか、汁物はこぼれないか、忙しい時間帯に店内とどう両立させるか。考えることは決して少なくありません。ですが、「店内飲食一本」だった状態に、もうひとつ”受け皿”が加わることで、変化に対する耐性が少し強くなる。そんな見方もできるのではないでしょうか。大切なのは、無理にすべてをやろうとするのではなく、「うちの料理のなかで、持ち帰っても美味しさが届くものは、どれだろう?」という一品から、小さく試してみることです。

シナリオ3 現金給付のタイミングは、「ちょっと贅沢な外食」の追い風になるかもしれない

ここで、少し明るい話をします。

中低所得層への現金給付が実施されたとしたら、そのお金のすべてが内食に流れるとは限りません。人は、家計に少し余裕が生まれたとき、「たまには、外で美味しいものを食べよう」と考えることもあります。

つまり、給付のタイミングは、「日常の外食」ではなく「ちょっと贅沢な、特別な外食」にとっては、むしろ追い風になりうるのです。

たとえば、記念日や特別な日に選ばれる、一軒のお店を思い浮かべてみてください。誕生日、結婚記念日、無事に大きな仕事をやり終えた日。そういう”節目”に、人は「今日くらいは、いいお店で」と財布の紐をゆるめます。スーパーのお惣菜が少し安くなったところで、プロポーズの夜にお惣菜を選ぶ人はいません。家計にほんの少し余裕が生まれたとき、その余裕は、しばしば「思い出に残る一日」へと向かいます。

「給料日の少しあとに、ご褒美のディナーを」「久しぶりに、家族でちょっといいお店へ」——そんな”ハレの日需要”が、給付をきっかけにそっと動き出す。そういう場面を思い描いてみると、すべてが逆風というわけではないことが見えてきます。要は、自分のお店が、お客さまの暮らしのなかで「どういう役割」を担っているのかによって、同じ変化が逆風にも追い風にもなりうる、ということです。日常使いのお店には日常使いの、ハレの日のお店にはハレの日の、それぞれにふさわしい構え方があるのです。

シナリオ4 お客さまの「食べ方の選択肢」が、もっと多様になるかもしれない

もう少し大きな視点で見ると、今回の変化は、お客さまの「食べ方の選択肢」が、これまで以上に多様になっていく流れの一部なのかもしれません。

家で作って食べる。お惣菜を買って帰る。お店で持ち帰る。デリバリーを頼む。お店で食べる。ちょっといいお店でハレの日を過ごす——。こうした選択肢の一つひとつが、それぞれの理由とタイミングで選ばれていく。お客さまは、その日の気分や財布や状況に合わせて、こまやかに”食べ方”を選ぶようになる。

ここで、休日の午後に賑わうカフェを思い浮かべてみましょう。あるお客さまは、ゆっくり読書をしながら店内で過ごす。別のお客さまは、お気に入りの焼き菓子を手土産に持ち帰る。また別のお客さまは、家での仕事の合間にデリバリーで一杯のコーヒーを頼む。——同じ一軒のカフェが、お客さまの暮らしの場面ごとに、まったく違う形で選ばれていく。これは、決して珍しい風景ではなくなってきています。

そう考えると、お店に求められるのは、「ひとつの食べ方を押し付けること」ではなく、「お客さまのいろいろな”食べ方”のなかに、できるだけ自然に居場所を持つこと」なのかもしれません。店内で食べてもらうのも、持ち帰ってもらうのも、ぜんぶ「うちのお店を選んでもらっている」という意味では同じ。その懐の深さが、これからのお店の強さになりうる——そんな見方もできます。

シナリオ5 国や自治体の支援が、出てくる可能性もある

最後に、もうひとつ。

大きな制度変更が動くときには、その影響を受ける事業者に向けて、国や自治体から、何らかの支援(補助金・助成・相談窓口など)が出てくる可能性もあります。過去にも、環境が大きく変わる局面では、事業者を後押しする仕組みが用意されてきました。

もちろん、今回そうしたものが出るかどうかは分かりません。出るとしても、内容や対象は読めません。けれど、「もし支援が出たら、すぐに手を挙げられるように、ふだんから自店の状況を整理しておく」という準備は、決して無駄になりません。こうした支援は、たいてい「申請期間が短い」「先着で締め切られる」といったことが起こりがちです。いざそのときに、自店の売上の状況や、取り組んでいることをすぐに言葉にできる状態にしておく——それだけで、手を挙げられるかどうかが変わってきます。情報のアンテナを少し高くしておくこと。それ自体が、立派な備えのひとつです。

この章の結び

——さて、5つのシナリオを並べてみました。

逆風めいたものもあれば、追い風になりうるものもある。共通しているのは、どれも「確定」ではなく、「お店ごとに、出方が違う」ということです。町の定食屋さんと、記念日に使われる一軒では、受ける影響がまるで違う。仕事帰りの居酒屋さんと、休日のカフェでも違う。テイクアウトと相性のいい業態と、そうでない業態でも違う。立地でも、客層でも違う。

だからこそ、世間一般の「外食は大変らしい」という大雑把な話に飲み込まれず、「うちのお店の場合は、どうなりそうか」という、自分ごとの解像度で考えることが何より大切なのです。同じニュースを聞いても、青ざめる必要のないお店もあれば、いまから少し動いておくと安心なお店もある。その見極めこそが、最初の一歩です。

そして実は——その「自分ごとの解像度」を一緒に高めていくことこそ、私たちデリシャスノーツがいちばんお役に立てるところだと思っています。次の章で、そのお話をさせてください。


第3部 それでも、外食には外食にしかない価値がある

湯気の向こうの笑顔。外食にしか生み出せない時間が、たしかにある
湯気の向こうの笑顔。外食にしか生み出せない時間が、たしかにある

逆風を、追い風に変える視点

ここまで、起こりうる変化をいろいろと並べてきました。けれど、私たちがいちばんお伝えしたいのは、その先にある、もっと前向きな話です。

それは、外食には、内食やテイクアウトでは決して替えられない、外食にしかない価値がある、ということ。

スーパーのお惣菜が少しお得になったとしても、それは「家で、ひとりで、黙々と食べる時間」を便利にするものです。けれど、お店の暖簾をくぐったときの、あの少しの高揚感。湯気の向こうで交わす「おつかれさま」のひとこと。店主さんの「いらっしゃい」の声。隣の席から漂ってくる、知らない料理の匂い。家族や仲間と囲むテーブルの、あたたかな笑い声。——これらは、価格では計れない価値です。そして、家のなかには、決して持ち込めない価値です。

人はパンのみにて生きるにあらず、と言いますが、人は「栄養」だけのために外食するのではありません。「その時間」「その場」「その人との記憶」を求めて、お店に足を運ぶ。誰かの誕生日を祝った、あのお店。仕事終わりに通った、あのカウンター。家族で囲んだ、あの円卓。——人の人生の節目には、いつもどこかに「お店の記憶」が寄り添っています。だとすれば、いくら内食の割安感が高まろうとも、外食という体験そのものが消えてなくなることは、決してありません。

問われているのは、「外食が要るか・要らないか」ではなく、「あなたのお店が、お客さまにとって”わざわざ来る理由”を、どれだけ持てているか」。その一点なのだと思います。

“見つけてもらう”ことの大切さ

もうひとつ、大事なことがあります。

どんなに素晴らしい価値を持ったお店でも、お客さまに「見つけてもらえなければ」、その価値は伝わりません。

変化が起きるとき、お客さまは「いつもの選択」を少しだけ見直します。「今日はどこで食べようか」「家で済まそうか、それとも」——その迷いの瞬間に、お客さまの頭のなかに、あるいはスマホの画面のなかに、あなたのお店が”ちゃんと存在している”かどうか。これが、これからますます効いてきます。

ここで、ひとつの小さな情景を思い描いてみます。——あるお店は、料理の味には誰よりも自信がありました。けれど、なぜか新しいお客さまがなかなか増えない。ある日、店主さんが思い立って、看板メニューの一皿を、湯気が立つそのままの姿で写真に撮り、お店の”いま”が伝わるようにそっと載せてみました。すると、たまたまそれを見かけた近所の人が「こんなお店、近くにあったんだ」と暖簾をくぐってくれた。その人がまた、誰かに話してくれた。——たったそれだけの、小さな工夫。けれど、「ちゃんと見つけてもらえる状態」になっていたかどうかが、選ばれるか・通り過ぎられるかの分かれ道になった。そういうことが、現場では本当に起こります。

地図アプリで検索したときに、ちゃんと出てくるか。検索したときに、お店の魅力が伝わる情報がそろっているか。SNSで、ふだんからお店の空気が届いているか。一度来てくれたお客さまと、その後もゆるやかにつながり続けられているか。ホームページや、各種のグルメ媒体で、お店の”いま”がきちんと伝わっているか。——こうした「見つけてもらう・思い出してもらう」ための土台こそ、変化の時代にお店を支える、静かで力強い基盤になります。派手なことをする必要はありません。大切なのは、お客さまが「どこで食べよう」と迷ったその一瞬に、あなたのお店がちゃんとそこに”在る”こと。それだけなのです。

デリシャスノーツが、これまで大切にしてきたこと

私たちデリシャスノーツは、これまで多くの飲食店さんと並走しながら、この「見つけてもらう・選んでもらう・また来てもらう」という流れづくりを、お手伝いしてきました。

私たちが大切にしてきたのは、特定のひとつの媒体やツールに偏らないことです。世の中には、お店を知ってもらうための手段がたくさんあります。地図や検索での見つけやすさ。SNSでの空気づくり。公式LINEなどを通じた、リピートのきっかけづくり。お店の世界観を伝えるホームページ。さまざまなグルメ媒体。——どれかひとつが万能なのではなく、お店の業態・客層・立地・強みによって、効く組み合わせは一軒ごとに違います。

たとえば、若いお客さまが多いお店と、長年通ってくださる常連さんに支えられたお店とでは、届け方がまるで変わります。住宅街の小さなお店と、繁華街のお店でも違う。ランチが主役のお店と、夜が主役のお店でも違う。——だから私たちは、「これさえやれば大丈夫」という決まった型を押し付けるのではなく、お店ごとに「どの手段を、どう組み合わせるのがいちばん自然か」を、いっしょに考えることを大事にしてきました。この”横断的に見渡せる経験”こそ、私たちのささやかな財産だと思っています。

いま、私たちが研究・準備していること

そして、今回のような変化の話が出てきているなかで、私たちはいま、「この変化を、お店ごとにどう乗りこなしていくか」を、まさに研究し、準備している段階です。

正直に申し上げると、まだ「これが正解です」と言い切れる答えを、私たちも持っているわけではありません。制度そのものが確定していない以上、断定するほうが不誠実だとすら思っています。耳ざわりのいい”必勝法”を売り込むことは、私たちのやり方ではありません。

ただ、これまでの経験から、「こんなことができるかもしれない」という方向性は、少しずつ見えてきています。

たとえば——お店が「日常使い」で勝負しているのか、「ハレの日」で勝負しているのかによって、打つべき手はまるで変わってくるはずです。持ち帰りやデリバリーという”受け皿”を作るとしたら、それをどう知ってもらうか、という見つけてもらう工夫もセットで要るでしょう。一度来てくれたお客さまと、変化のなかでもつながり続けるために、ゆるやかな”再来店のきっかけ”をどう設計するか、という視点も大切になりそうです。

こうした一つひとつを、お店ごとの事情に合わせて、いっしょに研究していく。 いまはまだ、その準備をしている最中です。だからこそ、特定のサービス名やプランをここでお見せすることはしません。それよりも、「あなたのお店の場合、どこから考えはじめるのがよさそうか」を、これから一緒に探っていけたら——そう思っています。


第4部 変化の前に、いっしょに備えませんか

お店とデリシャスノーツ。同じ景色を見ながら、未来へ歩いていく
お店とデリシャスノーツ。同じ景色を見ながら、未来へ歩いていく

「決まってから」では、少し遅いかもしれない

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

最後に、ひとつだけ、お願いに近いことをお伝えさせてください。

それは、「制度が完全に固まってから動く」のでは、少しもったいない、ということです。

大きな変化というのは、たいてい、決まった瞬間にいっせいに動き出します。そうなってから慌てて準備を始めると、どうしても後手に回ってしまう。情報も人手も、みんなが一度に求めるから、混み合ってしまう。みんなが同じ方向に走り出してから走っても、なかなか前には出られません。

一方で、変化が来る”前”の、いまのような静かな時期に、少しだけ準備を進めておいたお店は、いざその日が来たとき、落ち着いて対応できます。慌てない。焦らない。すでに自分のお店の足元を、一度ちゃんと見つめ直してあるからです。

何も、大がかりなことをする必要はありません。まずは、「うちのお店は、この変化でどんな影響を受けそうか」を、いっしょに整理してみる。 それだけで、見える景色はずいぶん変わります。準備というのは、たいてい、いちばん最初の一歩がいちばん腰が重い。けれど、その一歩さえ踏み出してしまえば、あとは案外、すいすいと進んでいくものです。

こんなことから、いっしょに整理できます

具体的には、たとえばこんな問いから始められます。どうか、ご自分のお店を思い浮かべながら、ひとつずつ答えてみてください。

  • うちのお店は、「日常使い」と「ハレの日」、どちらの色合いが強いだろう?
  • もし内食・テイクアウトの割安感が高まったら、いちばん影響を受けそうなお客さまは、どんな層だろう?
  • うちには、持ち帰りやデリバリーという”受け皿”を作る余地があるだろうか? あるとしたら、どんな形が自然だろう?
  • うちのお店に「わざわざ来てくださる理由」を、ひとことで言うとしたら、それは何だろう?
  • いまのお店は、新しいお客さまに「見つけてもらえる」状態になっているだろうか?
  • 一度来てくれたお客さまと、その後もつながり続ける仕組みは、あるだろうか?

こうした問いに、ひとつずつ向き合っていくだけで、「自分のお店が、どこに強みを持っていて、どこに備えの余地があるのか」が、だんだんと輪郭をもって見えてきます。すべてに、すぐ答えが出なくても構いません。むしろ「これは、まだ考えたことがなかったな」という問いが見つかったなら、それこそが、いちばんの収穫です。そして、その輪郭が見えれば、変化が来ても、もう怖くありません。「うちは、ここを大事にすればいい」という軸が、自分のなかにできているからです。

まずは、気軽にご相談ください

私たちデリシャスノーツは、こうした「あわてない準備」を、お店のみなさんといっしょに考えていきたいと思っています。

何かを売り込もう、というのではありません。いまはまだ、私たち自身も「この変化をどう乗りこなすか」を研究している最中ですから、むしろ、お店のみなさんの現場の声を聞かせていただきながら、いっしょに知恵を出し合えたら——そんな気持ちでいます。現場でお客さまと向き合っている店主さんの実感ほど、確かなものはありません。私たちは、その声から学ばせていただきたいのです。

「うちのお店は、どんな影響を受けそうだろう?」
「何から考えはじめたらいいんだろう?」
「そもそも、この話って本当なの?」

——どんな入口でも構いません。漠然とした不安でも、ちょっとした疑問でも。立派な相談である必要はまったくありません。お茶でも飲みながら話すような気持ちで、まずは気軽に声をかけてください。

変化の風は、たしかに吹きはじめています。でも、風は、向き合い方しだいで、お店を前へ進める追い風にも変えられます。同じ風を受けても、帆の張り方ひとつで、船は前にも進めば、立ち止まりもする。その帆の張り方を、いっしょに探していく。それが、私たちのいちばんやりたいことです。

“その日”が来る前に。落ち着いて、少しずつ、いっしょに備えていきましょう。

あなたのお店の暖簾の向こうに灯る、あのあたたかな明かりが、これからもずっと続いていくように。——心から、そう願っています。


この記事は、報道などで「検討されている」とされる制度の動きをもとに、外食店の備えという観点から書いたものです。制度の内容・時期・実施はいずれも未確定であり、最新の情報は公的機関等の公式発表をご確認ください。

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